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『空が泣く』
SIDE :立露





どうして

こんなにも哀しい歌を彼は歌うことができるのだろう。





そう思ったのは彼が一人、広い部屋の窓際に座り、

ガルモーシカを弾いていたのを聴いた時だ。

軽快な伴奏と正反対なメロディは哀愁が漂っている。

俺はその歌を耳に入れながら彼の為に紅茶とジャムを用意する。


「イヴァンさん、お茶が入りましたよ。」


「ありがとうトーリス。」


優しく笑う彼と甘い香りが心を落ち着かせた。




普段はこんなに柔らかい印象のイヴァンさんだけど、

彼の残酷さと氷の瞳を俺は知っている。

この音楽と同じように矛盾した性質を持っているのだ。




そこが彼の魅力であり、俺を縛り付ける何かなんだ。




「おいしいね、トーリスの煎れたお茶はあと何回飲めるだろう。」


「何度でもいれますよ。貴方が望むかぎり。」


どうしてそんなことを言うのか、俺には分からなかった。


「僕はもうすぐ死ぬよ。」


イヴァンさん。

悲しいことを言わないでください。


「すべては決まっていたレールの上だったってことなのかな。

神様には敵わないよ。」


「・・・・・・。」


俺は何も言えない自分を恨んだ。




「ねぇトーリス、曇ってきたね。」


「そうですね。ここのところ天気が良くないみたいです。」


俺はまだ彼に思いを伝えていない。

彼に惹きつけられていること。

その気持ちを心地よいと思っていること。




多分ずっと伝えられずに終わるんだ。




それでいいと思っている。

『永遠に傍に…』なんて言葉は絶対に言えないのだから。


「今にも泣きそうだね。」


「え?」


イヴァンさんは困った様に笑いジャムを口に含んだ。


「空とキミ。」


あぁ…

愛しいけど愛せない、

俺もまた、アナタの矛盾に含まれているようだ。


「そうですね、

イヴァンさんの歌が聞けなくなるのが寂しいみたいです。」


「ありがとう、嬉しいよ。」


イヴァンさんもまた空と同じように哀しい顔で笑った。




まるで、これから起きることを予想していたかのように。






この後、帝政が崩壊、トーリスは独立します。

本家様ではイヴァンさんはイヴァンさんのままですが、

このお話では一度眠りにつき、生まれ変わるというイメージで展開しています。






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